ベトナムに工場を作ってみてわかったこと
――ベトナム実習生の仕事を覚える速さについて先ほどおっしゃいましたが、日本人との違いについて気がついたことを教えてください。
J社長 ベトナムはここ5、6年で急激に豊かになったので、今の子は先輩に比べて劣りますが・・、特に最初の実習生はハングリーでしたね。
それでも(今のベトナムの20代は)、1950年~60年生まれの日本人に似ているように思います。
バブル前の日本人のように国が右肩上がりで成長しているので、失敗を恐れず新しいことに挑戦する意欲は日本の若者よりも強い。そもそも他の東南アジアの国に比べ、民族的に学習意欲が高いと聞いたことがありますね。
――社長は国内国外両方でベトナム人と仕事をされているのですが、国内でベトナム人実習生を雇う際に注意すべきことはなんでしょうか。
J社長 やはり人として扱う。差別をしないということだと思います。小さなことですが、社内レクリエーションを行ったり、長い休日のときにはジュースを寮に持って行って話をしてあげたりという程度でもいいと思います。
「D社は家族みたいな会社だ」と言ってくれるとうれしいですね。
――うーん。愛情を注いであげることが大切なんですねえ。現地工場で気がついたことはありますか?
J社長 ベトナムの人は「叱られる」のも「叱る」のも両方が不得手と感じます。
――「人前で厳しく叱らない」というのはアジアでは常識なので、叱られ慣れてないのはわかりますが、「叱るのも下手」とはどういうことですか。
J社長 例えば我々が「AをするとBという問題が起きるから、Aはダメ」と教えると、日本語のできるベトナム人幹部は部下に「Aはダメ」としか伝えないんです。理由まで言わないんですね。また、感情的になって『叱っても怒るな』ができないことも多い。
一般的に計画だてて行動することも苦手ですね。材料がいつ頃無くなるかを計算して仕事するということなどが(笑)。
ただ、そうなったときに創意工夫で何とかするという能力は逆に(日本人よりも)高いです。
――ベトナム工場経営で困ったことはありますか?
J社長 ホーチミンは(日本料理店なども多く)洗練されていますが、ベトナムの郊外はまだまだ「アジアの田舎町」といったところが多いんです。工場のあるビエンホアではご飯は地元の食堂で食べるしかないので、日本人社員にとっては環境の変化が大変でした。
あとは、やはり日本人とベトナム人のコミュニケーションですね。現地工場内の公用語は日本語といってもよく、話せるベトナム社員は10人ぐらいいます。でも、日本語で仕事の指示をすると、5割ぐらいの理解で「ハイ(わかりました)」と言うんです。
時には3割ぐらいしか理解していない場合もあるので、失敗して怒られても「指示通りにやったのに!」となって日本人社員とトラブルになることがあります。
ですから、日本人社員には『これだけ何度も言っているから分かっているはず』と考えないよう、いつも指導しています。
――ベトナム人は器用ですが、日本のこだわった丁寧なモノづくりはなかなか理解できないと言われています。このあたりはどうですか?
J社長 僕はそうは思いません。「理解するまで言い続ける。あきらめない」という気持ちを持って言えば必ず理解してくれます。
「自分でいいものを生みだし、それが褒められることはわが子が褒められるのと同じじゃないか」という話を従業員によくするんです。誇りを持っていいものを作ることが社会貢献になるという考えは、ほとんどの人には伝わります。
――なるほど。「あきらめない」と言うところに社長の信念を感じます・・。
グローバル市場に向けた日本製造業とは
――ベトナム工場と日本工場の今後ですが、今後御社はどのようなビジョンをお持ちですか?海外で簡単で単価の安い大量生産品を作り、日本で技術力のいる製品を作るのが定石のように考えるのですが、御社は主力製品をベトナムでつくっているんですよね。あえて難しいことに挑戦する理由は何でしょうか。
J社長 賃金が上がり続けている中国やベトナムなどの今後を考えると、10年後には海外生産のコストメリットがなくなると思っています。しかし、それでも今後10年はベトナム生産のお世話にならないといけないと考えているからです。
現在ベトナムと日本の売上比率は1対6ぐらいですが、10年間でこれを6対4ぐらいまで持っていきたい。
海外マーケットへの売り上げもまだ5%ぐらいなので、来年には香港に営業事務所を立ち上げて拡大していくつもりです。
――香港に営業事務所ですか・・。先の先を考え、まだまだ挑戦は続くと言うことですね。ありがとうございました!